放送局に勤務していた頃、
詩人の川崎洋さんとご一緒に
仕事をしたことがたびたびある。
川崎さんの詩集は愛読したが、
たったひとつだけ、知らない詩が
あったことを知ったのは、
亡くなられてからのことだった。
味わってください。
抹殺
両親がいて
わたしは生まれた
それは祖父母がいてのこと
さらには曾祖父母がいてのこと
そうやって十代さかのぼると
両親を始めとする先祖の総計は
一〇二四人となる
この中の一人が欠けても
今のわたしはいなかった
戦争は
「この中の一人」を殺す
いや一人だけではない
未来の数え切れないいのちを
抹殺する